HIV薬市場の規模、成長動向、および予測2032年

世界のHIV治療薬市場：トレンド、成長要因、将来展望（2024～2032年）

HIV治療薬市場は、現代  の最も重要な公衆衛生課題の一つであるHIV感染症の管理において極めて重要な役割を果たしています。2023年時点で、世界市場は341億3000万米ドルに達し、HIVを致死的な疾患から管理可能な慢性疾患へと変貌させた抗レトロウイルス療法（ART）への堅調な需要を反映しています。Fortune Business Insightsによると、市場は2024年の361億1000万米ドルから2032年には582億4000万米ドルへと急拡大し、予測期間中に年平均成長率（CAGR）6.2%で成長すると予測されています。この成長は、治療選択肢の継続的な進歩、世界的なHIV感染率の上昇、そして革新的な医薬品へのアクセス向上を裏付けています。

HIV（ヒト免疫不全ウイルス）は世界中で数百万人に影響を与え、免疫系を弱め、治療しなければエイズ（AIDS）を発症します。抗レトロウイルス薬のおかげで、HIV感染者はウイルス量を抑制できるようになり、ほぼ正常な平均寿命を保てるようになりました。市場の進化は、患者の服薬遵守を向上させる長時間作用型注射剤や固定用量配合剤など、より効果的で簡便な治療法への移行によって推進されています。2023年には、高い認知度、堅牢な医療インフラ、そして大手製薬企業の存在を背景に、北米が70.58%（240億9000万米ドル）という圧倒的なシェアで市場を席巻しました。

製品タイプ別の市場セグメンテーション

HIV 薬市場は、製品タイプ別に、インテグラーゼ阻害剤、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤 (一部の分類では NRTI と表記されるが、通常はヌクレオシド類似体とは区別される)、複合 HIV 薬、その他という 4 つの主要カテゴリに分類されます。

• 配合HIV薬は、 市場を席巻し、最も急速に成長しているセグメントとして台頭しました。これらの多剤配合製剤は、ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤（NRTI）とインテグラーゼ阻害剤などの他のクラスの薬剤を組み合わせることが多く、投与方法が簡便で優れた効果を発揮します。その人気の理由は、最新の技術革新を取り入れ、HIV感染症および重複感染の管理を改善していることです。包括的な1錠レジメンに対する患者の需要の高まりにより、このセグメントは2032年まで市場を牽引すると予想されています。
• インテグラーゼ阻害剤は、  2023年に2番目に大きなシェアを占めました。ドルテグラビルなどのこのクラスの薬剤は、国際エイズ学会（IAS）などの組織によって、新規診断患者に対する第一選択薬として推奨されています。その高い効力、低い副作用、そして迅速なウイルス抑制効果により、現代のHIV治療の基盤となっています。
• 非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤（NNRTI）は 、新規のイノベーションに比べて需要が減少していることを反映し、シェアが最も小さい。耐性問題と副作用プロファイルにより、インテグラーゼをベースとした治療薬が、エファビレンツなどの従来のNNRTIに大きく取って代わった。
• その他 カテゴリーには、 プロテアーゼ阻害剤（PI）、融合阻害剤、CCR5拮抗薬、接着後阻害剤、薬物動態増強剤が含まれます。これらは補助的な役割を果たしますが、併用療法が主流となっているため、市場シェアは限定的です。

この区分は明確な傾向を浮き彫りにしています。つまり、患者と医療提供者は、ウイルス量を検出できないレベルに抑える利便性と有効性から、組み合わせ製品を好む傾向が高まっているということです。

流通チャネルによる市場セグメンテーション

流通チャネルも市場の動向に影響を与えます。

•  HIV 診断および治療のための病院訪問の増加と処方された抗レトロウイルス薬の売上増加により、病院薬局が最大のシェアを占めると予測されています。
• 小売薬局は、 店舗数の増加と、経口薬の定期的な補充に対する患者の好みの増加から利益を得ています。
•  インターネットの普及率の上昇と慢性疾患の薬の宅配の利便性により、オンライン薬局は最高の CAGR を達成する見込みです。
• 政府の保健センターなど他の機関は、十分なサービスを受けられていない人々を対象としています。

オンラインチャネルへの移行は、都市部やパンデミック後の復興期に特に顕著であり、長期的なHIV管理へのアクセス性を高めています。

地域分析と洞察

地域別では、北米が圧倒的なシェアを占めています。これは、  米国の高いHIV感染率（CDCのデータによると、2018年時点でHIV感染者は約120万人）と、主要企業による革新的な医薬品の上市に支えられています。この地域の先進的な医療システムと啓発活動は、安定した需要を牽引しています。

ヨーロッパは 、HIV感染者数の増加、戦略的提携（例えば、2020年にTheratechnologiesがLoxxessと提携してTrogarzoを販売）、ドイツ、フランス、イギリスなどの国での製薬会社の強力な存在感により、2位にランクされています。

アジア 太平洋 地域は、最も高いCAGR（年平均成長率）で、最も急速な成長が見込まれています。中国やインドのような人口の多い国では、未治療の患者数が多く、治療プログラムの拡大と民間セクターからの資金提供によって、その数はさらに増加し​​ています。例えば、ギリアド・サイエンシズが2020年に提供した140万ドルのギリアド・アジア太平洋レインボー助成金は、アクセス改善に向けた取り組みの成果です。

その他 の地域 （ラテンアメリカ、中東、アフリカ）は、先進的な医薬品へのアクセスが限られており、医療費も低いため、シェアは小さい。しかし、2,070万人のHIV感染者を抱える東部・南部アフリカ（UNAIDS 2019）のような地域は、世界的な取り組みによって医薬品の入手性が向上するにつれ、大きな潜在的可能性を秘めている。

2022年末時点で、世界で3,900万人がHIVに感染しており（WHOデータ）、同年の死亡者は63万人に達しており、治療へのアクセス拡大が緊急に必要であることが浮き彫りになった。

主要プレーヤーと競争環境

市場は競争が激しく、強力なポートフォリオを持つ企業が優勢を占めています。

• ViiVヘルスケア （グラクソ・スミスクラインが過半数を所有）は、初の長期作用型注射剤であるCabenuva（カボテグラビルとリルピビリン）などの承認でリードしています。
• ギリアド・サイエンシズ社は、 ビクタルビなどの製品や、2021年にメルク社と長期作用型治療薬に関する提携を結ぶなどの協力関係を通じて、強固な地位を維持しています。

その他の主要企業としては、メルク、ブリストル・マイヤーズ スクイブ、ジョンソン・エンド・ジョンソン（ヤンセン）、ベーリンガーインゲルハイム、アッヴィ、ジェネンテック（F・ホフマン・ラ・ロシュ）、ビアトリス（マイラン）などが挙げられます。Aurobindo Pharma、Zydus Lifesciences、Lupin、Heteroといった新興企業は、ジェネリック医薬品と小児用製剤に重点を置いています。

戦略には、研究開発投資、新製品の発売、発展途上市場への参入のためのパートナーシップなどが含まれます。

市場の推進要因、制約、そして機会

主な推進要因としては、世界的なHIV感染率の上昇、政府の啓発活動、そして製品承認数の急増などが挙げられます。長期作用型治療薬のイノベーションは服薬遵守の課題に対処し、1日365錠の服用量を年間わずか12錠にまで軽減します。

制約要因としては、治療へのアクセスが不平等であること、特に発展途上国では、多くの人が自身の病状を知らない、あるいは手頃な治療選択肢がないことが挙げられます。治療法がないことが、長期的な管理をさらに複雑にしています。

次世代の治療法の開発と並行して、アフリカ（世界の症例の3分の2）やアジア太平洋などの負担の大きい地域でのアクセスを拡大することにチャンスがあります。

大きなトレンドとして、長時間作用型抑制剤の台頭が挙げられます。カベヌーバ（2021～2022年）などの注射剤のFDA承認が加速しています。小児用医薬品やジェネリック医薬品の戦略的提携や研究開発も活発化しています。

COVID-19の影響と最近の動向

COVID-19パンデミックはサプライチェーンを一時的に混乱させ、新規処方箋の減少を引き起こし、ギリアドやセラテクノロジーズといった企業の売上高減少につながりました。しかし、パンデミック後の回復は力強く、処方箋数は回復傾向にあります。

最近のハイライトは次のとおりです:

• ザイダス・ライフサイエンス社によるダルナビル錠のFDA承認（2023年12月）
• オーロビンド・ファーマの小児HIV治療薬計画（2023年8月）
• ルピンのジェネリックダルナビル発売（2023年6月）
• 進行中の長期作用型治療薬の開発

こうした進歩は、持続的な成長が見込まれる回復力のある市場を示唆しています。

結論

HIV治療薬市場は、科学的イノベーション、人口動態、そして世界的な保健イニシアチブに牽引され、着実な拡大軌道に乗っています。2032年までに582億4000万米ドルに達すると予測されており、併用療法、長期作用型治療薬、そして公平なアクセスへの注力は、HIVとの闘いにおいて極めて重要となります。HIVの有病率は依然として高く、世界で3,900万人が罹患している状況において、この業界の進歩は、より良い治療成績、そして最終的にはエイズのない世代への希望をもたらします。

出典:  https://www.fortunebusinessinsights.com/industry-reports/hiv-aids-drugs-market-101115