耐火ケーブル市場の火災安全基準強化による需要増
耐火ケーブル市場:世界的な需要拡大と今後の成長見通し(2024–2032年)
世界の耐火ケーブル市場規模は、2024年に約20億1,000万米ドルと評価されており、2025年には20億8,000万米ドル、2032年には28億6,000万米ドルへ成長すると予測されている。予測期間中(2024~2032年)の年平均成長率(CAGR)は4.72%と見込まれ、建築・建設分野や自動車・輸送分野を中心に、堅調な需要拡大が期待されている。
本稿では、耐火ケーブル市場の概要、成長要因、セグメント別・地域別の動向、そして今後の課題と展望について詳しく解説する。
- 耐火ケーブルとは:役割と特長
耐火ケーブルとは、火災発生時においても一定時間以上、送電機能や信号伝送機能を維持できるよう設計された特殊ケーブルである。一般的な電力ケーブルや制御ケーブルと異なり、以下のような特長を持つ。
- 高い耐熱性・難燃性:高温環境下でも絶縁性能と機械的強度を維持。
- 機能保持性能:火災時でも避難誘導灯、非常用エレベーター、スプリンクラー、火災警報システムなどの重要設備に電力を供給し続ける。
- 低煙・低毒性:低煙無ハロゲン(LSZH)などを用いることで、有毒ガスや濃煙の発生を抑制し、避難環境を確保。
火災安全基準の高度化や都市インフラの複雑化に伴い、ビル、トンネル、地下鉄、病院、データセンターなど、**人命保護と事業継続性(BCP)**が重視される施設において採用が拡大している。
- 市場規模と成長率の概要(2024–2032年)
- 市場規模(2024年):20億1,000万米ドル
- 市場規模(2025年):20億8,000万米ドル
- 市場規模(2032年予測):28億6,000万米ドル
- CAGR(2024–2032年):4.72%
この成長率は、成熟市場における更新需要と、新興国のインフラ整備による新規需要がバランスよく牽引していることを示している。特に、安全規制の強化および持続可能な建築・インフラ投資が市場の底堅さを生み出している。
- 耐火ケーブル市場の主な成長要因
3-1. 建築・建設分野における防災規制の強化
高層ビル、大規模商業施設、病院、空港、鉄道駅、地下施設など、現代の建築物は高密度化・大規模化が進んでいる。その結果、火災時の避難や救助活動が一層難しくなり、防火区画化と重要設備の機能維持が法規制の中核となりつつある。
- 各国の建築基準法・電気設備技術基準において、火災時の電源確保に関する要件が厳格化。
- 非常用照明や消火設備、避難誘導システム向けの耐火ケーブル採用が義務化または事実上の標準となるケースが増加。
これにより、新築案件だけでなく、大規模リノベーションや耐震・防災改修工事においても、耐火ケーブルの採用機会が増えている。
3-2. インフラ投資と都市化の進展
新興国を中心に、以下のインフラプロジェクトが活発化している。
- 都市鉄道・地下鉄・トンネル整備
- 高速道路や橋梁に付帯する電力・通信インフラ
- 発電所・変電所・配電網の増強
- 港湾・空港・物流センターの拡張
これらのインフラでは、火災時でも運行管理や監視、通信を維持する必要があり、高耐火性能を有するケーブルの採用が不可欠となる。
3-3. データセンター・産業プラントでのBCP需要
クラウドサービスの拡大やIoTの進展に伴い、データセンターやサーバールームへの投資が世界的に増加している。また、石油化学プラント、製造工場、発電設備などでは、火災時の操業停止リスクを最小化することが求められる。
これらの施設では、
- 非常用電源への配線
- 監視・制御システム
- 消火・防爆システム
など、重要系統に耐火ケーブルを採用することで、事業継続性と安全性の両立を図っている。
3-4. 環境対応材料へのシフト
環境負荷の低減や人体への安全性を重視し、低煙無ハロゲン(LSZH)材料の採用が拡大している。これにより、従来のPVC中心だった市場構造から、より高機能・環境配慮型のケーブルへの置き換えが進行し、付加価値の高い製品が市場成長を押し上げる構図が生まれている。
- 絶縁材料別セグメント分析
耐火ケーブル市場は、絶縁材料別に以下のように分類される。
4-1. ポリ塩化ビニル(PVC)
PVCは長年にわたって電線・ケーブルの標準的な絶縁材料として利用されてきた。
- 特長:コスト競争力、高い加工性、十分な電気的特性
- 用途:一般建築配線、産業用電源ケーブルなど価格重視の用途
一方で、燃焼時に有毒ガスや腐食性ガスを発生する懸念があるため、防災性や環境規制の観点から、LSZHへの置き換えが徐々に進行している。
4-2. 低煙無ハロゲン(LSZH)
LSZHは、耐火ケーブル市場において最も注目される材料群の一つである。
- 利点
- 燃焼時の煙発生量が少ない
- ハロゲンを含まず、有毒ガスや腐食性ガスの発生を抑制
- 公共施設や地下空間など、人命と設備保護が重視される用途に最適
消防法や建築基準の厳格化に伴い、LSZH材料を使用した耐火ケーブルは、特に先進国市場での標準仕様化が進んでおり、今後も高い成長が期待される。
4-3. エチレンプロピレンゴム絶縁(EPR)
EPRはゴム系絶縁材として、柔軟性や耐熱性に優れた材料である。
- 特長:
- 高い柔軟性により敷設性が良好
- 温度変化に対する安定性
- 耐水性・耐候性
プラントや船舶、発電設備など、過酷環境での使用が想定される用途に多く採用されている。耐火性能と併せて、機械的ストレスや振動に強いケーブルが求められる場面で競争力を持つ。
4-4. 架橋ポリエチレン(XLPE)
XLPEは、ポリエチレンを化学的に架橋することで高い耐熱性と電気特性を実現した材料である。
- 利点:
- 高温下でも優れた絶縁性能
- 低誘電率により電力損失が小さい
- 高電圧・中電圧の送配電ケーブルに適合
耐火仕様と組み合わせることで、高電圧系統にも対応可能な耐火ケーブルとして、エネルギーインフラや大規模産業プラントでの需要拡大が見込まれる。
4-5. その他材料
シリコンゴムやマイカテープなど、特殊な耐火性能や柔軟性を求められる用途向けに採用される材料も存在する。これらはニッチだが高付加価値な市場で、高温炉周辺設備や特殊産業用途などに用いられる。
- エンドユーザー別市場動向
耐火ケーブル市場は、エンドユーザー別に以下のように分類される。
5-1. 自動車・輸送
鉄道車両、地下鉄、トンネル、船舶、航空施設などでの採用が進む。
- 車両内配線、制御ケーブル
- 駅施設・信号設備・トンネル照明
- 空港ターミナルや滑走路照明システム
輸送インフラは火災時の安全性確保が特に重視され、国際規格や交通機関独自の厳格な基準に適合する耐火ケーブルが求められている。
5-2. 建築・建設
耐火ケーブル市場の中核を成す最大セグメントである。
- 商業ビル、オフィスビル、ホテル
- 病院、学校、公共施設
- ショッピングモール、スタジアム、アリーナ
非常用電源、消防設備、避難誘導設備、セキュリティシステムなど、多岐にわたる用途が存在し、新築・改修ともに安定した需要が見込まれる。
5-3. 繊維産業
繊維工場では、粉じん爆発や可燃性物質の存在などにより、火災リスクが高いとされる。生産設備、制御盤、搬送システムにおいて、
- 耐火性
- 耐油性・耐薬品性
- 高温環境への適応
が求められ、これに応じた耐火ケーブルの導入が進められている。
5-4. 電気・電子
データセンター、電子部品工場、半導体工場などにおいて、クリーンルームやサーバールームの安全性確保が重要視される。
- サーバーラックへの電源供給
- 通信・ネットワークケーブル
- 監視システム・防災システム
電気・電子分野では、設備停止が企業活動に直結するため、耐火ケーブルによるリスク低減への投資が継続的に行われている。
5-5. その他
石油・ガス、化学工業、鉱業、軍事・防衛施設など、特別な安全要件を持つ分野でも耐火ケーブルの採用が広がりつつある。これらの分野はプロジェクト単価が高く、中長期的に市場を下支えする重要なニッチセグメントとなっている。
- 地域別市場動向と予測
6-1. 北米
北米では、老朽化したインフラの更新と、NFPA(全米防火協会)などによる厳格な防火規格が市場成長を支えている。データセンター投資も増加しており、高度な防災性能とBCPニーズが、耐火ケーブル需要を押し上げている。
6-2. 欧州
欧州は、早くから耐火ケーブルの規格化とLSZH採用を進めてきた先進市場である。
- EN規格をはじめとした統一規格
- グリーンビルディング認証(BREEAM、LEED など)との親和性
環境配慮型材料と高度な安全性を両立した製品が求められ、技術的に洗練された高単価市場として特徴づけられる。
6-3. アジア太平洋
アジア太平洋地域は、今後最も高い成長ポテンシャルを有する市場と見られている。
- 中国、インド、東南アジアでの都市化・インフラ投資
- 高層ビルや交通インフラの急増
- 日韓における高品質・高信頼性ケーブルへのニーズ
新興国では、規制整備とともに耐火ケーブルの採用が加速すると予想され、数量ベースで世界最大の需要地となる可能性が高い。
6-4. ラテンアメリカ・中東・アフリカ
これらの地域では、エネルギー関連プロジェクトや大規模インフラ整備が進行中である。
- 石油・ガス関連施設、発電所
- 大型商業施設、スタジアム、空港
政治・経済情勢による投資の変動はあるものの、長期的なインフラ需要に支えられた安定成長が期待されている。
- 市場が直面する課題
7-1. 高コストと価格競争
耐火ケーブルは、材料や構造が高性能である分、一般ケーブルに比べてコストが高い。特に価格感度の高い新興国市場では、初期投資の大きさが採用拡大の障壁となる場合がある。一方で、製造コスト削減や規模の経済により、中長期的には価格低下と普及拡大が進むとみられる。
7-2. 規格の多様化と認証負担
各国・各地域で防火規格が異なり、鉄道会社や建設会社ごとの独自仕様も存在するため、メーカー側には、
- 多様な規格への対応
- 認証取得コスト・期間の負担
が発生する。これが新規参入のハードルとなる一方、既存大手メーカーにとっては参入障壁となり、競争優位の源泉ともなっている。
7-3. 技術革新の必要性
より高い耐火性能と環境性能、敷設性の良さを同時に追求する必要があり、材料開発や製造プロセスの革新が鍵となる。企業間の技術競争は激化しており、R&D投資を継続できる企業が市場で優位に立つとみられる。
- 今後の展望
2024~2032年の耐火ケーブル市場は、年間4.72%の安定したCAGRで成長すると予測されている。その背景には、
- 防災・安全に対する社会的関心の高まり
- 都市インフラ・交通インフラの継続的な整備
- データセンターや産業プラントでのBCP投資
- LSZHなど環境配慮型材料の普及
といった複合的な要因がある。今後は、高性能・環境対応・コスト効率を同時に満たす製品が市場で求められ、材料技術・設計技術・製造技術の総合力が企業競争力を左右する。
また、スマートシティ構想や再生可能エネルギーの拡大など、新たなインフラトレンドも耐火ケーブル需要を押し上げる可能性が高い。メーカーやサプライヤーにとって、規制動向や建設トレンドを的確に捉え、ターゲット市場に即した製品ポートフォリオを構築することが、今後の成長戦略において極めて重要となるだろう。
耐火ケーブルは、「もしものとき」に真価を発揮するインフラの要であり、世界的な安全・安心志向の高まりとともに、その重要性は今後さらに増していくと考えられる。

