オフィス家具市場の市場規模評価と新規需要領域
オフィス家具市場の現状と将来展望：2025～2032年の成長予測
近年、働き方改革やオフィス環境の多様化が進む中、オフィス家具市場は世界的に注目を集めている。Fortune Business Insightsが発表した最新の調査レポート「オフィス家具市場」によると、世界のオフィス家具市場規模は2024年に575億1,000万米ドルと評価され、2025年の613億5,000万米ドルから2032年までに995億8,000万米ドルへと成長することが予測されている。この期間の年平均成長率（CAGR）は7.17%と、堅調な拡大が見込まれている。
特にアジア太平洋地域は2024年時点で市場全体の41.27%を占め、圧倒的なシェアを誇る。この地域の成長を牽引しているのは、中国、インド、日本、韓国などの経済成長とオフィスビル建設の活発化、そしてスタートアップ企業の急増である。一方、北米市場も堅調に推移しており、特に米国では2032年までに154億4,000万米ドルの市場規模に達すると見込まれている。
市場成長の主な要因
この市場拡大の最大の原動力は「人間工学（エルゴノミクス）に基づいたモダンなワークスペースソリューション」への需要の高まりである。長時間労働やテレワークの普及により、腰痛や肩こり、眼精疲労などの健康問題が深刻化する中、従業員の健康と生産性を両立させる家具が強く求められている。
具体的には以下のような製品が注目を集めている：
- 座面の高さ・角度・奥行きを細かく調整可能なエルゴノミックチェア
- 電動昇降デスク（スタンディングデスク）
- モニターアームやキーボードトレイ付きのデスクシステム
- 姿勢矯正クッションやフットレストなどの周辺アクセサリー
これらの製品は単なる「家具」ではなく、「健康投資」として企業に認識されるようになっている。特に欧米企業では、従業員のウェルビーイング（幸福度）を重視する文化が根付きつつあり、オフィス家具の選定基準が「価格」から「健康効果・生産性向上効果」へとシフトしている。
製品タイプ別の市場動向
製品タイプ別に見ると、最も大きなシェアを占めるのは「オフィスチェア」である。2024年時点で市場全体の約40%を占めており、今後も成長が期待されている。特にゲーミングチェアの技術を応用した高機能オフィスチェア（通気性の高いメッシュ素材、14点調整機構、ヘッドレスト・ランバーサポート標準装備など）が人気を集めている。
次いで「オフィステーブル（デスク）」が大きな割合を示す。特に2020年以降の在宅勤務需要で、家庭でも使用できるデザイン性の高いデスクや、電動で高さ調整が可能なスタンディングデスクの需要が急増している。
「ストレージ家具（収納）」も堅調に推移している。ペーパーレス化が進む一方で、個人ロッカーやセキュリティ性の高いキャビネットの需要は根強い。特にハイブリッドワーク環境では、フリーアドレス制に対応したパーソナルロッカーや共有ストレージの需要が増えている。
素材別のトレンド
素材別では従来から「木材」と「鋼鉄」が主流であるが、近年は「プラスチック・複合素材」や「アルミニウム」などの軽量かつ環境に優しい素材の採用が進んでいる。特に欧州では、FSC認証木材やリサイクル素材を使用したエコフレンドリーな家具が行政・大手企業を中心に積極的に導入されている。
日本国内では、国産ヒノキやスギを使用した木質オフィス家具が再評価されており、「木の温かみ」を活かしたオフィスづくりがトレンドとなっている。また、抗菌・抗ウイルス加工を施した家具素材も、コロナ禍以降の新しいスタンダードとして定着しつつある。
流通チャネルの変化
流通チャネルでは、これまで圧倒的だった「オフライン（実店舗・法人営業）」が依然として主流であるものの、「オンライン販売」の伸びが著しい。特に中小企業やスタートアップ、個人事業主を中心に、Amazon Businessや楽天市場、専門ECサイトでの購入が増加している。
コロナ禍を契機に、多くのオフィス家具メーカーが自社ECサイトを強化し、3DビューアやVRでのバーチャル内覧サービスを提供する動きが加速している。また、法人向けには「サブスクリプションモデル（家具のレンタル・リース）」も拡大しており、初期投資を抑えたい企業から支持を集めている。
地域別市場動向
アジア太平洋地域
前述の通り、最も成長著しい地域である。特にインドではIT企業やBPO企業のオフィス需要が爆発的に増加しており、2025～2032年のCAGRは10%を超えると予測されている。中国では、政府主導のスマートシティ開発に伴い、大規模オフィスビルの建設が続いており、高級オフィス家具の需要が堅調である。
北米地域
米国では「リターン・トゥ・オフィス（オフィス回帰）」の動きが強まっており、2024年後半からオフィス家具への投資が再び活発化している。特にシリコンバレーやニューヨークの大手テック企業が、最先端のオフィスデザインを競い合うように改装を行っている。
欧州地域
サステナビリティが最重要視される地域であり、CO2排出量を明示した家具や、循環型経済に対応した「リユース可能設計」の製品が主流となっている。スウェーデン発のオフィス家具ブランドが、この分野で世界をリードしている。
日本市場の特徴と展望
日本国内のオフィス家具市場は、少子高齢化による労働人口減少を背景に、「少ない人数で高い生産性を上げる」ための投資が活発化している。特に2024年以降は「2024年問題（働き方改革関連法の適用拡大）」を控え、企業のオフィス環境見直しが加速している。
主なトレンドとして以下の点が挙げられる：
- フリーアドレス＋ABW（Activity Based Working）対応家具の導入
- ウェルビーイングを重視したバイオフィリックデザイン（自然素材・緑化）
- 防災機能付き家具（耐震ラッチ、避難スペース確保型書庫など）
- 日本人の体格に合わせた国産エルゴノミックチェアの再評価
国内主要メーカー（オカムラ、コクヨ、イトーキ、ウチダ、内田洋行など）は、いずれも人間工学研究に巨額の投資を行っており、特にオカムラの「Contessa SECONDA」やコクヨの「ing」シリーズは、世界水準の評価を受けている。
今後の市場予測と企業に求められる対応
2032年に向けて、オフィス家具市場は単なる「家具の市場」から「働く環境をデザインするソリューション市場」へと変貌していくことが予想される。企業は以下のポイントを意識した家具選定が求められるだろう：
- 従業員の健康データと連動するスマート家具の導入
- 多様な働き方（ハイブリッドワーク）に対応する柔軟なレイアウト
- ESG経営に資するサステナブルな製品選定
- メンタルヘルス対策としてのリフレッシュスペースの整備
結論として、世界のオフィス家具市場は2025～2032年にかけて年平均7.17%で成長し、2032年には約1,000億米ドル規模に到達する見込みである。この成長の中心には「人の健康と生産性を最大化する」という普遍的なニーズがあり、今後も人間工学とデザイン、そして環境配慮を融合させた製品が市場を牽引していくことだろう。
企業がこれからのオフィスづくりを考える際、単に「家具を揃える」のではなく、「どのような働き方を従業員に提供したいのか」という視点がますます重要になっていく時代が到来している。
